Vol.136 集団走で力を最大限発揮するための『引っ張ってもらう技術』


こんにちは、窪田忍です。


ランニングは一人でも楽しめるスポーツですが、仲間と一緒に走ることで、新たな学びや成長があります。

実際、ランニングクラブや大会では、誰かと集団で走る場面も少なくありません。


そんな時、ただなんとなく人の後ろについて走るだけではもったいないということはご存じでしょうか?


今回は、集団走をもっと楽に走るための考え方についてお話します。

 


題して「コバンザメ術」です。



「コバンザメ」と聞くと、人任せに楽をしているようなイメージを持つ方もいるかもしれません。


しかし、私が言う「コバンザメ術」はそういう意味ではありません。


前を走る人の力を上手に借りながら、自分の力を最大限に引き出す。これは長距離走において、とても重要な技術の一つです。


また、ただ後ろを走るだけでなく、お互いが気持ちよく走るためにも押さえておくべきポイントもあります。


私が現役時代に、駒澤大学やトヨタ自動車で学び、実践してきた経験から得たスキルです。トップアスリートも使うスキルなので、ぜひ取り入れてみてください。


それでは、最後までご覧ください。


◆ただ「人の後ろにつけばいい」だけじゃない


ランナーなら誰しも一度は、


「人の後ろを走ると楽だよ」
「ペースメーカーについていきなさい」

といったアドバイスされたことがあると思います。実際、誰かの後ろを走ると空気抵抗が減り、メンタル的にも一気に負担が軽くなります。


「集団で走るなんて、上級者がやることじゃないの?」と思われるかもしれませんが、実は、初心者の方にこそ試してほしい『一番手軽で、一番楽に距離が稼げる技術』です。


ですが、ただ漠然と人の後ろにくっついているだけでは、逆に疲れてしまうことがよくあります。


皆様の中にも、


「集団についていったのに、なぜかいつも以上に疲れた」
「前の人と足が当たりそうになって、終始ヒヤヒヤして集中できなかった」

そんな経験をした方はいるのではないでしょうか?


◆苦い経験から感じた“引っ張ってもらう”重要性


かくいう私にも、いまでも忘れられない非常に苦い思い出があります。


それは、大学3年時の箱根駅伝です。



vol.105 駅伝が教えてくれたことvol.3:箱根駅伝

調子が上がりきらない中で迎えた当日、気象コンディションも強烈な向かい風という厳しい状況。


そんな中で出走し、単独でペースが上がらず早々に後ろの集団に吸収されました。


しかし、5人ほどの集団で誰一人前に出ず、終始私が集団を引っ張る展開。


ペースを上げたいのに上がらない、誰かの後ろでリズムを整えたいのに誰も前に出ない。


結果的に、ラストで集団から離され、まったくと言って良いほどなにもできなかったレースとなりました。


このレースは、私の競技人生でもワースト1,2に入るほど辛いレースです。


そういった経験から、人の後ろで走るということがいかに重要な『技術』であるのかということを痛感しました。


◆時計もペースも見なくてOK!「つくこと」だけに集中できる



一人で走っていると、


「ペースは大丈夫かな?」
「コースはこっちで合っているかな?」

と、頭(脳)をフル回転させて走ることになります。


この「あれこれ考えること」自体が、脳を疲れさせ、身体を重くする大きな原因なんです。


そこで、誰かの後ろについて走ることで「余計な思考」をシャットアウトできます。


余計なことを考えなくて済むので、脳のエネルギーを使わずに済みます。


「前の人と同じリズムで足を動かすだけ」という、良い意味で思考停止の“ゾーン”に入ることができるため、一人で走るよりも驚くほど疲労感が減ります。


実際に私が良い走りが出来たレースは、通過タイムやレースプラン通り進めようとした時よりも、


「とにかく前につけるだけつく」
「〇kmまではペースを気にせずつく」

といったように、ごくシンプルな思考で走ったレースがほとんどです。


◆走っている間に、いつの間にか距離が稼げている


一人で走る10kmは「1km、2km、3km…」と、すごく長く感じることはないでしょうか?


さらにその中で、どのくらいで走っているかというペースも気にしなければなりません。


しかし、誰かの後ろについて走っていると、前の人の背中を無心で追い続けたり、ひたすらリズムを合わせて走っていると、あっという間に時間が過ぎた感覚になることがあります。


ふと手元の時計を見た時に、「もう〇kmも?」という、いつの間にか距離を稼げていた感覚こそが、集団走の利点です。


自分の力で必死に距離を伸ばしたというよりは、『集団に乗せてもらって、気づいたら目的地に着いていた』という感じでしょうか。


一人で走っていて感じている壁も、誰かの後ろについていくだけで、いつの間にか越えられているかもしれません。


◆これだけは押さえておきたい!「引っ張ってもらう側」のポイント


さて、ここまで集団走のメリットをお話しましたがですが、ビギナーの方が安全に、そしてお互いに気持ちよく走るために押さえてほしいポイントが3つあります。


① 「真後ろ」はNG!半身程度横にずれた「斜め後ろ」を走る


前の人の真後ろに入ってしまうと、前方の視界がほとんど遮られます。


道路の小さな段差や斜面、前の人の突然の減速に対応できず、ブレーキをかけたり歩幅を調整したりと、無駄なエネルギーを何度も使うことにもなりかねません。


では、どこに立つと良いのか?


私のオススメは、「前の人の斜め後ろ(半身ほど横にずれた位置)」です。



特に向かい風の場合、風向きに合わせて微調整するのがベストですが、基本は「少しずらす」ことです。


斜めに立つことで、真後ろよりも以下のようなメリットが生まれます。


視界が開ける: 前の人の肩越しにコースの先が見えるため、精神的な不安が減る。


トラブルに素早く対応できる: 前の人にトラブルがあっても対応しやすい。


風除け効果はほぼ変わらない: 斜め後ろでも、空気抵抗の軽減効果は十分に得られる。


「真後ろではなく、半身分横」。これがコバンザメのコツです。


②前の人との距離感にも注意!


集団走で一番気をつけたいトラブルが、前の人の脚を蹴ってしまうことです。


特に疲れてくると足元への注意が疎かになり、ちょっとしたリズムの変化でかかとを踏んだり接触したりする危険があります。


そういったトラブルは、前の人の走りを崩すだけでなく、不快な気持ちにさせてしまうこともあるでしょう。


前述した通り「半身分横にずれた位置」をキープしつつ、適度なスペース(一人分程度)も意識すると安全に走れます。


また、万が一接触してしまった時には、「すみません!」といった一言があると良いですね。


走り終えた後に「ありがとうございました!」と声掛けするのも良いでしょう。


『引っ張ってもらっている』という気持ちで、相手に対するリスペクトも持つことが、『心の余裕』にもつながります。


③無理についていかない!「キツい」と思ったら離脱する


集団の勢いに乗れるのがメリットですが、自分の適正ペースを超えて無理についていくと、一気にバテて自滅してしまいます。


「ちょっと速いかもしれない」
「ちょっと息が苦しいな」

と感じたら、ペースに落として下がりましょう。


後ろの集団を待って、そこでペースを整えるのも良いでしょう。


ポイントは、“ちょっと”異変を感じた時にその判断をすること。


その“ちょっと”を無理してしまうと、積もり積もってどんどん自分を苦しめてしまいます。


私はこの経験を本当に多くしてきました。


特に、高校生の頃は長い距離を走るのが苦手なのに、“後ろに引く”という選択ができず無理をして大失速・・・というレースを何度もしました。


集団走は楽に走る上で非常に有効ですが、過信しすぎないことも重要です。


◆最後に:人の力を借りることは「弱さ」ではない


一人で風を受け、ペースを維持し、ゾーンに入るのには限界があります。


しかし、誰かの力を借りることで、自分一人では到達できなかった「ひとつ上のレベル」に到達することができる。


それこそが、集団で走る最大の醍醐味であり、面白さです。


次に集団で走る時は、今回の『コバンザメ術』を試してみてください。


走り終わった後、いつもより手元の時計のタイムが良かったり、疲れが少なかったら…それはあなたがこの『技術』を身につけたということです。


そして、それを身につけたあなたは、ぜひ今度は他の人のために『引っ張る側』に回れるようになってほしいと思います。


執筆担当

窪田 忍(aile RUNNING CLUB 熊本 代表)

窪田 忍(くぼた しのぶ)

aile RUNNING CLUB 熊本エリアコーチ

経歴

鯖江高校(福井)/駒澤大学(東京)/トヨタ自動車(愛知)/九電工(福岡)

駒澤大学では、大学三大駅伝に4年間すべて出場。
区間賞5回獲得(出雲2回、全日本1回、箱根2回)したほか、日本人トップ4回。


実業団では、2015年・2016年と、トヨタ自動車史上初となるニューイヤー駅伝連覇に貢献。
引退後、幼稚園児〜大人まで幅広い世代の指導を行っている。
また、オンラインにて全国のランナーに向けたレッスンも行っている。

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