Vol.134 『市民ランナー』としてのランニングスタイル


こんにちは、窪田忍です。


今回は、市民ランナーの方々にあるであろう「切実な悩み」について、私なりの考えをお話ししたいと思います。


それは、「仕事でクタクタに疲れて帰ってきた日、走るべきか、休むべきか」という問題です。


現役時代の私であれば、迷わず「そんなの、体調が悪くないなら走るに決まっているじゃないですか。」と答えていたかもしれません。


なぜなら、当時の私にとって「走ること」が仕事そのものであり、1日のエネルギーのすべてをそこに注ぎ込める環境にいたからです。


しかし、現役を引退し、私自身もパソコンに向かってデスクワークをしたり、ランニングクラブの運営や指導のために朝から晩まで動き回るようになって、改めて痛感したことがあります。


「仕事終わりの疲れは、現役時代の練習後の疲れとはまったく異質で、本当にキツい」ということです。

この「市民ランナーのリアルな疲労」を身をもって知った今だからこそ、かつての“アスリート”としての視点と、現在の“市民ランナー”としての視点を掛け合わせて、このテーマを深く掘り下げてみたいと思います。


◆その疲れは「脳」なのか?「身体」なのか?


まず立ち止まって考えてみてほしいのは、その疲労の正体です。


現役時代の練習後の疲れは、そのほとんどが「肉体的な疲労」でした。


筋肉が疲労し、エネルギーが枯渇している状態とでも言えるでしょうか。


しかし、仕事終わりに感じる「今日はもうヘトヘトだ・・・」という疲れの多くは、実は「脳と神経の疲労」であることがほとんどです。


パソコンの画面を凝視し続けて、目や肩がガチガチになっている


会議や商談、人間関係で気を遣い、精神的にエネルギーを消耗した


デスクワークで同じ姿勢を続け、血流が滞って身体が重だるい


これらは、身体がエネルギーを消費したわけではなく、自律神経のバランスが崩れ、脳が「疲れた」というサインを出している状態です。


ここで大切なのは、「脳の疲労」に対して「ただ横になって休む」のは、必ずしもベストな回復法ではないということです。


むしろ、そのまま寝てしまうと血流が悪い状態が続き、翌朝起きた時にもどんよりとした重さが残ってしまうことがあります。


◆「アクティブレスト」という選択肢


そこで私が提案したいのが、走ることで疲れを抜く「アクティブレスト(積極的休養)」という考え方です。


脳が疲れている時に、あえて外に出てゆっくりと走り出します。


すると、滞っていた全身の血流が巡り始めます。固まっていた股関節や肩甲骨が動かされることで、物理的な固さがほぐれていきます。


さらに、外の空気を吸うことで、仕事モードで張り詰めていた脳のスイッチが切り替わり、自律神経が整ってきます。


皆さんの中にも、走る前は重かった頭が、走り終わった後はなんだかスッキリしている、という経験がある方もいるのではないでしょうか?


ただし、ここで現役時代の私がよくやっていたような「失敗」をしてはいけません。


大切なのは、「目的」を絶対に忘れないこと。


もしあなたが「仕事で疲れているけれど、予定のメニューだから」と、無理にインターバルやペース走などの激しい練習(ポイント練習)を入れようとしているなら、それはかえってマイナスになることもあります。


脳が疲れている状態でのハードな練習は、集中力が切れやすいことはもちろん、そこからフォームが乱れ、怪我のリスクを跳ね上げます。


仕事終わりのアクティブリセットの目的は、心肺や筋肉を追い込むことではなく、「脳を解放し、血流を良くして、明日元気に走るための土台を作ること」です。


◆「走る・休む」を見極める、窪田忍のチェックリスト


では、具体的に「走るべき日」と「本当に休むべき日」をどう見極めればいいのか。


私が今の生活の中で意識している、簡単な基準をお伝えします。


状態 判断 おすすめの過ごし方
頭や目は重いが、足取りは軽い(デスクワーク疲れ) 積極的に走ってOK タイムを気にせず、心地よいと感じるペースで10〜15kmの軽いJog
立ち仕事や外回りで、物理的に足腰がだるい 状態を見て走る Walkから始め、状態を見極めてゆっくり走り出す。10分程度走っても重さが抜けないならやめる、または筋トレへ切り替える。
睡眠不足、または精神的にすり減っている 休む 走らず、きっぱり休む。

特に3つ目の「睡眠不足」の日は、私は特に走ることをおすすめしません。睡眠は練習と同じくらい重要視しています。


そこは「やめる勇気」を持って早く布団に入ることが、結果的にその後の練習やパフォーマンスに繋がります。


◆ウェアに着替えて、玄関のドアを開けるまでが意外と「最難関」


偉そうなことを言っていますが、私も仕事終わりに「今日はサボろうかな・・・」と思う日はたくさんあります。


最近、私が練習の中で一番きついと感じるのは、長い距離を走ることでも、インターバルのラスト1本でもありません。


「疲れた身体を奮い立たせて、ウェアに着替え、玄関のドアを開けるまで」

正直、これこそが最大の難所です。


だからこそ、そのハードルを徹底的に下げてください。


「今日は最低でも10km走るぞ!」と思うから着替えるのが億劫になります。


「とりあえずウェアに着替えて、外の空気を5分だけ吸いに行こう。ダメならすぐ帰ってゆっくりしよう」


そのくらいの気持ちでいいです。


不思議なもので、一歩外に出て走り出してしまえば、身体は自然と動きはじめます。


なんとなく身体を動かしているうちに、気づけば「走ってよかったな」と思える瞬間がやってきます。


◆最後に


現役時代の私にとって、走ることは「結果がすべて」の世界でした。


結果が出なければ存在価値がない、それくらいの覚悟で走っていました。


でも、今の私は違います。そして、私のもとに集まってくださるaile RUNNING CLUBのメンバーの皆様を見ていても強く思います。


市民ランナーの皆様にとって、ランニングは「人生そのもの」ではありません。仕事や家庭、大切な日常がある。 その人生を、もっと豊かに、もっと楽しくしてくれる存在であってほしいと思っています。


その上で、目標に向かって挑戦するからこそ、ランニングには素晴らしい価値があります。


仕事の疲れを敵にするのではなく、上手につき合う。


「今日は疲れたから、脳をリフレッシュさせるためにjogに行こう」

そんな風に、自分の状態を客観的に見つめながら、時には「やめる勇気」を持ち、時には「アクティブレスト」を活用する。


このコントロール力こそが、ランニングを心から楽しみ、かつ長く成長し続けるために重要だと私は考えます。


もし、頭がモヤモヤしているなら、外の空気を吸いに外へ走りに行ってみませんか?



執筆担当

窪田 忍(aile RUNNING CLUB 熊本 代表)

窪田 忍(くぼた しのぶ)

aile RUNNING CLUB 熊本エリアコーチ

経歴

鯖江高校(福井)/駒澤大学(東京)/トヨタ自動車(愛知)/九電工(福岡)

駒澤大学では、大学三大駅伝に4年間すべて出場。
区間賞5回獲得(出雲2回、全日本1回、箱根2回)したほか、日本人トップ4回。


実業団では、2015年・2016年と、トヨタ自動車史上初となるニューイヤー駅伝連覇に貢献。
引退後、幼稚園児〜大人まで幅広い世代の指導を行っている。
また、オンラインにて全国のランナーに向けたレッスンも行っている。

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